債務超過の場合の純資産がマイナスとは?

純資産とは?

純資産とは、資本金や資本余剰金などのことを言います。
つまり、借金などのように返済義務のない、企業の資産を純資産といいます。
全ての資産(総資産)のうち、負債を差し引いた(控除した)資産を指し、自己資産または正味財産(しょうみざいさん)、自己資本とも呼ばれる項目です。
決算書(貸借対照表・損益計算書)の中に度々出てくる言葉で、十分把握していないと企業の経営状況を見誤ってしまうので注意しましょう。
先ほど、純資産は資本金や資本余剰金などと表現しましたが、実際は次のような2種類と6つの資産を指します。

株主資本:株主に帰属する資産、出資や利益の合計から自己株式を引いた金額
1・資本金
2・資本余剰金
3・利益余剰金
4・自己株式

その他・評価・換算差額等:帳簿価額と時価の差額
5・新券予約権
6・少数株主持権(連結貸借対照表に限る)

まず、資本金は事業を運営することを目的にした基礎資金です。
株主が払い込みや給付をしていている財産を指します。
資本金1億円と書かれている場合は、株主がそれだけ出資しているしていることを意味します。
ただ、資本金のうち、1/2を超えない範囲で資本準備金として計上することも可能です。
実際、資本金が大きすぎると税金も高くなるので、節税目的として資本準備金に組み込むケースも見られます。
一方で、資本金が少ないと企業規模が小さく見られることを意味し、取引先の信用が得にくくなるデメリットもあります。

資本余剰金とは、先ほど紹介した資本準備金やそれ以外の資本余剰金を指します。
資本準備金とは、先ほど資本金で触れた資本金に組み入れられなかった資金や株式交換差益、株式移転差益といった株式を動かして得た利益も含まれる積立金です。
それ以外の資本余剰金とは、株式以外で得た利益で、以下の3点を指します。
・固定資産評価差益:実際の固定資産の価値よりも高い評価を得た際に出た利益
・債務免除益:金融機関などから救済として債務免除を受けた場合の利益
・保険差益:補償のために受けた保険金の金額が、実際の被害で受けた損壊の金額よりも多い場合の利益
ちなみに貸借対照表では、資本準備金とそれ以外の資本余剰金は、別々に記載することが基本です。

利益余剰金は、会社の利益を積み立てたお金で、儲けの貯金のようなお金を指し、次の2種類が主に利益余剰金とされています。
・利益準備金:会社法で定められた積み立てることが義務付けられているお金、配当金額の10分の1を積み立てなければならない。
・任意積立金:積み立てが強制されることのない積立金、配当可能利益の中から、定款または株主総会の決議により会社が自由に積み立てられる。さらに目的積立金(退職給付積立金、役員退職積立金、配当積立金など)、無目的積立金(目的なく積み立てている)に分けられる。

4つ目の自己株式は、会社が発行する株式の中で自社が持っている株式を言います。
たとえば、親会社が100%株式を保有している完全小会社の場合は、まったくありません。
一方で、株主から株を取得して保有をした年があった場合、もともとあった自己株式総額を超える金額の取得額だったとしたらマイナスになります。
たとえば、自己株式100万円だった会社が株主から1,100万円分の株を取得した場合は、マイナス1,000万円です。
この場合は資本の払い戻しで純資産の部から控除するので貸借対照表では▲(マイナス)と記載します。

ここからは、これまでと少し違った性格の純資産です。

まず、新株予約権とは、これから発行する株を買う権利です。
近い将来資産になるであろう未実現の株主資本を言います。
かつてはストックオプションと呼ばれていました。
こちらは決算時点では実在しない資産ですが、純資産として計上できます。

少数株主持分は、完全ではない子会社(100%出資していない子会社)の資産を計上する場合に用います。
この会社の財務諸表の全額を合算します。

このような資産が純資産と呼ばれるものになります。

純資産マイナスとは?

今解説した純資産がマイナスになることがあり、この状態が純資産マイナスになります。
簡単に言えば赤字が累積した状態で、負債が資産を上回ってしまっているケースが純資産マイナスで、次のような状態です。

総資産-総負債=マイナス状態の純資産

よくニュースなどで耳にする債務超過と呼ばれる状態が、この総資産マイナスです。
貸借対照表上は、自社の資産をすべて売却したとしても負債の返済ができない状態が純資産マイナスといわれる状態なのです。

このように純資産マイナスによって自社の資産をすべて売却したとしても負債の返済ができないということは、貸借対照表を見ることで容易に分かります。
そのため、新規に融資を金融機関へ依頼したとしても、金融機関は新規の融資をすることが基本的にありません。

また、純資産がマイナスになるということは自己資本がマイナスになります。
つまり、自己資本比率もマイナスになるのです。
自己資本比率は次の計算式で求められる資産の指標です。

自己資本比率(%)=自己資本÷資産×100

自己資本比率が低いほど返済が必要なお金の割合が高いことを意味します。
マイナスになってしまっている自己資本比率の場合は、相当返済が必要なお金を抱えているといえるでしょう。

このような純資産マイナス、債務超過になってしまう原因について次の項目で解説しましょう。

債務超過とはどういうときになるか

債務超過は、会社のすべての資産を売却しても債務がそれを上回ってしまう状態ですが、このような状態になってしまうタイミングとして次の状態が挙げられます。

・赤字経営
・投資ミス

業績が振るわず赤字経営になってしまっている場合は、債務超過になりやすいといえるでしょう。
赤字が続くことで、融資を受けるなど負債がどんどん大きくなっていきます。

投資ミスも債務超過を引き起こす原因です。
投資をする際に、様々な手段で資金調達をしますが、その際に融資による資金提供を受けることも少なくありません。
そして、目論見通り投資した金額を回収できるだけの収益が得られれば良いのですが、そうでない場合は投資額が未回収となり、負債だけが残ってしまいます。

これらのような原因が主な債務超過の理由といえるでしょう。

また、会計上の債務超過のパターンとして次の2種類があります。

・簿価債務超過:貸借対照表上で負債が資産を上回る(今回紹介した債務超過のほとんど)
・実質債務超過:評価替え(適切な時価に修正すること)や営業権(技術やノウハウを資産にしたもの)の計上をしても債務超過が解消されない状態

これらのような状態を解消する方法を紹介しましょう。

債務超過の解消方法

債務超過になってしまっても解消できる方法はいくつかあり、それは次の5つです。

・増資:経営者自身の財産や株主、ファンド、知り合いから出資
・DES(Debt Equity Swap・デット・エクイティ・スワップ):銀行などの債権者に自社株などを渡して負債を免除してもらう。
・M&A:事業そのものを譲渡したり、合併する
・ファクタリング:売掛債権を買い取ってもらい現金を受け取る
・民事再生法や会社更生法:いわゆる倒産に近い状態。財産の処分や負債の返済計画、事業の見直しをする

これらのいずれかが成功すれば、債務超過は解消されるでしょう。

債務超過だと会社は倒産する?

債務超過になっても会社は倒産しません。
たしかに債務超過の解消方法に倒産に近い民事再生法や会社更生法を挙げました。
そのため、債務超過は倒産のイメージを持った方もいるのではないでしょうか。
それでも、中小企業の場合は役員借入金といって役員から借金をして債務超過でもしのぐことができます。
長期の債務超過には適用が難しいものの、短期間であれば倒産を回避できるでしょう。