課税される所得金額がマイナスのときどうする?

個人で事業などを行っていると、年間の課税所得がマイナスになる場合があります。そのような場合には、どうせ納める税金がないのだから、わざわざ面倒な確定申告をしなくてもよいのではないかと考えがちですが、実際には申告を行うことによって得られるメリットも存在するため一概に不要とは言えません。そこで以下では、課税所得がマイナスの場合に申告すべきかについてより詳しく見ていくことにしましょう。

個人事業主は赤字でも確定申告すべきか

まず最初に、個人事業主が赤字に陥った場合に確定申告すべきかどうかについて見ていくことにします。

確定申告というのは、収入から必要経費や所定の控除額を除いて算出される課税所得に基づいて税金の額を計算し、税金を納めるために行う税務署に対する申告手続きであるため、単に税金を納めるという観点だけに着目すると課税所得がない場合には、特段申告する必要はないとも考えられます

。しかしながら、確定申告には、税金を納めるということ以外に、自己の生計の根拠を示し、公の機関に対して所得額を説明するという効果もあることから、この点からすると所得がゼロやマイナスであっても申告しておいた方がよいという場合があるのです。

具体的に申告していないと悪影響を被りかねないケースとして挙げることができるのが、金融機関などから受ける融資です。

たいていの場合、金融機関としては個人の返済能力を審査するために、直近数年間の確定申告書の提出を求めてくるのですが、申告していないと提出する書面が用意できず、結果的に融資が受けにくくなってしまうのです。また、個人事業主の多くは、国民健康保険に加入しているはずであり、収入が一定以下の場合には保険料の軽減措置を受けることができるようになっているのですが、申告を行っていないと所得証明書が取得できず、その恩恵にあずかることができなくなります。

さらに、無申告の場合には、児童手当の申請時に必要な非課税証明書の発行を受けることもできません。このように、個人事業主が赤字の場合には、確定申告を行うことは必須とは言えませんが、申告しないことで以上のような多くのデメリットを受けかねないため、できるのであれば申告はしておいた方がよいでしょう。

青色申告における赤字の繰越

次に、青色申告を行っている個人事業主の場合には、確定申告を行うことによって赤字の繰越ができるため、たとえ課税所得がマイナスであっても申告を行っておいた方がよいと言えます。

ここで青色申告というのは、複式簿記の原則に基づいて記帳された帳簿を作成し保存するという要件を満たしたうえで、税務署に申請して承認を受けることによって、最高65万円の青色申告特別控除や、青色事業専従者給与の必要経費算入など、税制面において様々な恩恵を受けることができるという制度です。

そのような恩恵の一つが、損失を3年間にわたって繰り延べることができるというものがあり、それによって次年度以降に収益が出た場合に、繰り延べた損失と相殺することによって当該年度の課税所得を抑えることができるという効果が得られます。

ごく簡単な例でいうと、今年度の収支が1,000万円の赤字で、次年度が1,500万円の黒字であった場合、特に申告を行っていなければ、次年度の課税所得は1,500万円ですが、申告していれば1,000万円の赤字を次年度に繰り延べることができるため、その年の課税所得は500万円となります。課税所得が1,500万円と500万円では、適用される税率が異なってくるため、申告することで課税所得は3分の1になり、納める税額はそれ以上に少なくなるというわけです。

赤字の場合に行う確定申告は、損失申告と呼ばれますが、以上で見たように、青色申告者にとって損失申告は将来の節税効果を生むことにつながりますので、ぜひ積極的に活用するとよいでしょう。ただし、青色申告の要件である複式簿記の原則に基づく帳簿の作成・保管を行うためには、基本的な簿記の知識が必須であるという点には留意が必要です。

課税される所得金額がマイナスの場合

では、個人事業主の課税所得がマイナスの場合に、税金が課されることはあり得るのでしょうか。結論から言うと、課税される所得金額がマイナスの場合に課税されることは原則としてありません。ただし、別途申告分離課税の対象となるような所得がある場合に、そちらについては課税されることになるため留意が必要です。

確定申告を行うに際しては、所定の申告用紙の必要欄を埋めることが求められるのですが、課税所得がマイナスの場合にいかなる金額を記載すればよいのかについて頭を悩ます人が多いようです。

これについては、マイナスであれば基本的にゼロと記載するだけで構いません。マイナスでもゼロでも課税額がないことには変わりありませんので、ゼロと記載することによって特段のデメリットもありません。最近ではインターネットを用いたオンライン申告ができるようになっていますが、その場合でも同様です。

なお、課税所得をゼロとして記載した場合、損失額がいくらであったのかが分からないため、青色申告者が次年度以降にいくらの損失を繰り延べることができるのかが分からなくなるのではないかという疑問を抱く人がいるかもしれませんが、そのような心配は杞憂です。というのも、確定申告のフォーマットの第四表の中に「青色申告者の損失の金額」という欄が設けられており、そこに損失額を記入することによって、次年度以降にその金額分の損失を繰り延べることが可能となるからです。言うまでもありませんが、そこに記入する損失額は、作成されている帳簿に基づいて確かにその金額の損失を被ったことを示すことができるものでなければなりません。

課税される所得金額がマイナスだと税額控除があっても還付されない

最後に、課税される所得金額がマイナスの場合に、税額控除を受けるとどのような結果になるのかについて触れておくことにしましょう。

まず、個人の所得税においては、様々な税額控除が設けられており、その中でももっともメジャーで多くの人が利用しているのが住宅ローン控除です。

正式には住宅借入金等特別控除という名のこの制度は、自己で居住する目的をもって所定の条件を満たすマンションや戸建て住宅を購入する場合に、ローン借入額の一定割合を定められた期間にわたって課税額から控除することができるという仕組みです。消費税の税率変更などに伴って、頻繁に見直しが行われる制度であるため、常に利用できるわけではありませんが、利用すれば年間数十万円単位で課税額を抑えることができるため、利用できるのであれば利用しない手はありません。

もっとも、この住宅ローン控除に代表される税額控除の適用を受けるためには、課税所得がプラスであることなどの様々な条件をクリアする必要があります。このため、課税される所得金額がマイナスである場合には、いくら当該年度に住宅ローン控除の対象となる借入金があったとしても、控除によって還付を受けることはできないという点に注意が必要です。

ただし、次年度以降に課税所得がプラスになった場合には、改めて申告して控除を受けることは可能です。課税所得がマイナスであるからといって、将来にわたって控除を受けることができなくなるということではありませんので、この点は誤解のないようしっかりと理解しておきましょう。確定申告は年に1回のイベントですので、ついつい申告し忘れて多額の控除を受け損ねるといったことは避けなければなりません。

課税所得がマイナスでも確定申告をしよう

以上で見てきたように、個人事業主にとって課税所得がマイナスの場合に確定申告を行うことには、損失を繰り延べることなどの様々なメリットがあります。また、申告しないことで受けるデメリットもかなりあることから、たとえ課税所得がマイナスであったとしても、積極的に確定申告を行うことが重要であるといえるでしょう。