会社の税務などを外部に依頼しようとしている場合、税理士以外に依頼することは基本的にできません。そのため、必ず税理士に依頼することになりますが、稀に税理士の資格を持っていない人が税理士の業務を行っていることがあります。トラブルを避けるためにも資格を持っている税理士に依頼すべきでしょう。
そこでこの記事では税理士の名義貸しとはどんなことを指すのかなどについて解説します。
税理士の名義貸しとは?
税理士の名義貸しとは、税理士が税理士として働く資格を持っていない人に対して自分の名義を貸すことを言います。税理士の業務の多くは税理士資格を持っていないと行ってはいけません。そこでこれらの業務を税理士資格を持っていない人が行うために有資格者の名前を借りて業務を行ったら名義貸しとなります。
税理士の名義貸しに関しては、税理士資格を持っていない人はもちろん、税理士資格を持っているけれども業務停止処分を受けている税理士に対しても適用されるので注意が必要です。
それでは、具体的な例としてはどんな行為が名義貸しに当てはまるのでしょうか。税理士の名義貸しによる処分でも特に多いのが税理士以外の人が税務関連の書類を作成し、税理士資格を持っている人が署名印を押すという例です。この場合、税理士資格を持っていない人が実質税理士業務を行ったと言えるでしょう。
国民には税金を納める義務があります。その税金に関わる業務を行うのが税理士の仕事であり、税理士は税に関するエキスパートとして、納税者である国民の信頼を得られる存在でいなければいけません。
それに税理士は難しい試験をクリアした人でないと就くことができない職業です。そこで資格を持っていない人が税理士としての業務を行うことを許してしまえば、税理士資格を持っていないとできない仕事である意味が無くなってしまいます。名義貸しは税理士の信頼が失墜してしまうきっかけにもなりかねないでしょう。
したがって、いかなる理由であれ税理士の名義貸しは絶対にやってはいけない行為と言えます。
税理士の独占業務
それでは、税理士にしかできない独占業務にはどんなものが挙げられるのでしょうか。
まず挙げられるのが税務書類の作成です。税務書類には確定申告のための書類などが挙げられます。これらの書類は納税者本人が作成した場合は問題ありませんが、本人以外の人が税務書類を作成する場合は税理士資格を持っていないと税理士の独占業務の侵害となってしまいます。したがって、知り合いに確定申告の書類作成を依頼した場合もその人が税理士の資格を持っていなければ違反にあたります。
次に挙げられるのが税務代理です。先ほど解説した通り税務書類の作成はもちろん税理士の独占業務に当てはまりますが、それ以外にも税金を税務署に納めに行ったり、納税のために必要な書類を送ったりする行為も代理人が行う場合は税理士が行わなければいけないと定められています。
これらの行為くらいはバレないから大丈夫と思っている人も少なくないでしょうが、税理士法に違反する行為なのでしてはいけません。
最後に挙げられるのが税務相談です。税務相談とは、どうすれば節税できるかを人にアドバイスしたり、納税額を算出したりする行為のことを指します。
会社を経営していたり、資産家の家系だったりすると納税額が大きくなりやすいため、節税に関する知識が身につきやすいですが、税理士資格を持たずに他人の税金に関する相談に乗れば違反となります。個人的に税金に関する話をする場合は問題ありませんが、インターネット上で税理士資格を持っていないのに質問を募って答えた場合などには税理士独占業務を侵害しているとして指摘される可能性があるので注意しましょう。
税理士の名義貸しがあった場合の罰則
先ほど解説した通り、納税者が信頼して税を納めたり、税に関する相談をしたりするためにも税理士はルールを守って業務を行わなければいけません。そこで、税理士が名義貸しを行った場合、税理士法37条に定められている「信用失墜行為の禁止」に基づいて処罰を受けることとなります。
税理士の名義貸しには税理士資格を持っているものの業務停止処分を受けた人に有資格者が名義を貸した場合と、税理士資格を持っていない人に有資格者が名義を貸した場合の2つのケースが存在します。この2つのケースにおける罰則は異なるので、1つずつ確認しましょう。
まず業務停止処分を受けた税理士に対して名義貸しは、税理士法37条に定められている税理士の信用又は品位を害するような行為に当てはまり、業務停止処分を受けた税理士が懲戒処分を受けることとなります。ちなみに懲戒処分の期間に関しては1ヶ月単位で決められます。
次に税理士資格を持っていない人に対する名義貸しに関する罰則は税理士法37条2項の「非税理士に対する名義貸し」にて定められており、業務停止処分を受けた税理士に対する名義貸しの場合と違って名義を貸した側と借りた側の両方に対して罰が課されます。
まずこの場合、名義を貸した税理士は懲戒処分を受けることとなります。また、名義を借りた非税理士は2年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処すと税理士法第52条、第59条第1項第3号にて定められています。それだけでなく平成26年の税理士法改正によって、名義を借りた非税理士が雇用人だった場合、その人を雇用している法人もしくは個人に対しても100万円の罰金刑が課されるようになりました。
税理士の懲戒処分の内容
税理士法37条・37条2項によって業務停止処分を受けた税理士が税理士資格を持った人から名義を借りた場合や、税理士が非税理士に名義を貸した場合には2年以内の懲戒処分が下されると解説しましたが、具体的にはどんな処分が下るのでしょうか。
この場合には2年以内の税理士業務停止もしくは禁止の懲戒処分が下ります。
税理士の懲戒処分には内容が重い順に税理士業務の禁止・税理士業務の停止・戒告の3つが挙げられます。名義貸しはこのうち最も重い税理士業務の禁止と2番目に重い税理士業務の停止が懲戒処分の内容に規定されており、名義貸しは税理士法に違反する行為の中でも重大な行為と言えるでしょう。
税理士業務の禁止が言い渡された場合は、顧問契約をすべて解除し税理士会も退会することとなります。したがってこの場合、税理士としての業務処分を受けた日から3年間税理士として働くことができなくなります。ちなみに3年経過すれば税理士として復帰することが可能です。
税理士業務の停止が言い渡された場合、税理士登録は消えませんが、顧問契約をすべて解除し、最大2年間税理士業務を行うことができなくなります。
税理士法に違反した際の処罰は基本的に税理士が不正行為を行った際の態度・過去に懲戒処分を受けているかどうか・違反が社会に与える影響・行為内容の悪質さの4つの項目をベースに考慮されます。名義貸しの場合はこの4つの項目に加えて名義を貸した人数・書類を作成した人数・名義貸しを行っていた期間・名義貸しによって得た利益を考慮し、懲戒処分の内容が決まります。
税理士の名義貸しと言われないためにどうすればいいか
税理士の名義貸しで多いのが、代表税理士と税理士資格を持っていないスタッフ数名で税理士事務所が運営されている場合です。
何度も解説している通り税理士資格を持っていない人が税に関する手続きや書類作成を行った場合、税理士の独占業の侵害となり、税理士法に違反します。そこで代表税理士の名前を使って無資格のスタッフに業務を行わせる税理士事務所は少なくありません。
悪質な税理士事務所だと契約時に代表税理士が依頼者と契約を結び、その後は一切依頼者とやり取りをせずに事務所スタッフに業務を丸投げするということもあります。
もちろんこの行為は非税理士への名義貸しとなります。税理士は名義貸しと勘違いされないためにもスタッフには事務所を運営するために必要な業務だけを任せ、依頼された業務は税理士だけで行わなければいけません。
基本的に名義貸しがあったかどうかは、税理士と依頼者の間で直接契約が結ばれているかどうか、契約した税理士が直接依頼者と会っているか、報酬は税理士に直接振り込まれているか、実際に税理士が業務を行った証拠が残っているかなどから判断されます。このように、税理士と依頼者が直接やり取りをしているかどうかが名義貸しの判断材料となるので、名義貸しと勘違いされないためにも、日々の業務の中で行った依頼者とのやり取りを全て証拠として残しておくことが大切です。
もしこれから自分が行う行為が名義貸しに当てはまるかどうか不安であれば、税理士会に連絡すれば該当行為が名義貸しかどうかを教えてもらえるので確認しましょう。
税理士の名義貸しはすべきでない
税理士が名義貸しを行った場合、依頼者や名義を借りた側よりも名義を貸した税理士側の負担の方が大きいです。それに名義貸しが発覚した場合は顧問契約をしている法人にも調査が入る可能性があるため、たくさんの人に迷惑がかかります。そうならないためにも税理士の名義貸しは税理士としてふさわしくない行為と認識しておきましょう。