会社が赤字であれば、税務調査は入らないのでしょうか?

この「赤字」というのは、一般には決算において損益計算書の最終値が利益ではなく、損失になっていることを指します。昔、簿記においては通常であれば黒インクで記すのに対し、支払が収入を超えたときや預金を借り越したときに赤インクで記したことから「赤字」と言われるそうですが、今回はこの帳簿上の赤字と税務調査について考えてみます。

赤字会社の税務調査の割合

国税庁が公表している「法人税等の申告実績の概要(平成30年10月)」及び「法人税等の調査実績の概要(平成30年12月)」によりますと、平成29年度において、法人税の申告件数は2,896千件あり、これに対し税務調査件数は98千件で、法人は約3%の確率で税務調査を受けたことになります。

そして、この申告件数のうち黒字申告は34%ですので、単純に考えると3%の税務調査のうちの66%、つまり約2%が赤字会社で税務調査を受けた割合となります。

この結果からみると、税務調査を受けているのは赤字会社が2に対し、黒字会社が1という割合になります。これらより、赤字会社への税務調査は「あり」ということがよくわかります。

赤字会社の税務調査は何を調べるのか

さて、税務調査においては何を調べられるのでしょうか?

税務調査において基本的調査事項は、赤字会社も黒字会社も同じです。

まず、調査官は、帳簿による調査を始める前に世間話を交えながら、会社の現状や今後の計画などについて状況調査をします。一般的には、次のような内容です。

・会社の沿革・業務内容・経営方針
・社長の経歴・役員等の配置
・主な取引先と取引内容
・金融機関との取引状況

これらをきっかけとして、経理の状況や社内規定の確認などをして準備を整えたのち、帳簿調査に入るわけです。

帳簿調査は、帳簿書類から不審箇所の抽出を行います。調査官は実施調査に来る前に予め、国税総合管理システム(略称KSKシステム)で調査済みです。KSKシステムとは、全国の国税局や税務署をネットワークで結び、納税者の申告情報を一元管理するコンピュータシステムのことです。

調査官は、KSKシステムにて申告漏れの可能性が高い会社を抽出してきているので、帳簿調査段階では「調べたい箇所」があるわけです。

帳簿調査においては、次のような確認が多いようです。

・決算仕訳及び決算前後の1か月間の取引内容
・総勘定元帳と売上・仕入の補助簿の整合性
・主要商品の在庫状況や現場の管理状況

提出された帳簿や資料が申告書に相違ない内容であれば指摘事項はないのですが、指摘があれば調査終了後に、調査官から調査内容とそれに係る指摘事項がまとめて伝えられ、修正申告へとつながっていきます。

赤字会社に税務調査が入る理由

たとえ決算書が赤字であっても、消費税については免税でない限りは法人や個人事業主には納税義務が発生します。よって消費税の税務調査に限定すれば赤字も黒字も関係ありません。

もともと消費税とは、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算するものなので、支払った消費税が多ければ還付してもらえます。そこで、消費税については、売上よりも仕入や経費などが多くて還付申告するケースや、建物や高額の設備投資により還付申告するケースなどが考えられますが、これらが妥当かどうかの調査が入る可能性はあります。

また、消費税以外にも、源泉所得税の徴収や印紙税などは、赤字でも黒字でも関係ありません。

しかし、法人税や所得税が確かに赤字であるかどうかの確認も調査では実施されるでしょう。

たとえ申告書上の所得がなくても、急に黒字から急落したのであればその妥当性検証の調査もあります。法人税は申告書に法人事業概況説明書を添付しますが、税務署ではこれをOCRで読み取ります。そして、前期対比や同規模・同一業種との比較などにより異常値が検出された場合、調査の候補とするようです。

ところで税務調査とは、一般的に質問検査権の行使を伴うものとされ、納税者は受忍義務、すなわち拒否したり妨げたりしてはならない義務を負います。質問に対する不答弁等が著しい場合は刑罰が科せられます。赤字・黒字に関係なく、帳簿や申告書について明快に応答できるに越したことはありません。

また、行政指導といって納税者の受忍義務のない「お尋ね」という文書が税務署から送られてくることがあります。この「お尋ね」は、法人税確定申告注意書、消費税の課税売上高のお尋ね等々さまざまですが、この返送をしなかったり返送内容に不審な点があれば、税務調査をする可能性が高くなります。

税務調査の対象会社の選定方法

先ほど、「調査官はKSKシステムにて対象会社候補を抽出する」といいましたが、このKSKシステムは国税庁事務管理センタと国税庁、国税局、税務署をネットワークで結ぶ全国規模のシステムで、税務行政の根幹となる各種事務処理を行う大規模なシステムです。税務調査にあたっては、資料分析及び調査選定にKSKシステムを活用するとともに、資料収集の専門部署を設置して調査に備えています。

国税庁から平成31年3月に発表された「税務行政の現状と課題」においては、税務調査の重点課題として、次の3点が掲げられています。

・経済社会の国際化、富裕層への対応
・消費税の不正還付防止
・無申告の把握

これらが、国税側の対象者の選定方針と言えます。

ここで一般的な調査対象会社の選定基準として、いくつかあげておきます。

・過去に不正があった不正常習法人
・バー・クラブ等国税局が指定する不正計算が行われやすい常習業種
・不正が想定される支払調書、投書、密告、内部告発のある法人
・売上は上昇しているのに所得が低調な法人
・役員に対する貸付金・借入金の増加のある法人
・海外取引のある法人
・特に売上高が増加した新設法人

法人ではこれらに該当する場合は赤字でも要注意となります。事前策としては、事業内容にこれらの変動があったり、前期比である項目のみ著しい変化があるときは、法人事業概況説明書の「営業成績の概要」欄に、その変動理由を詳細に記入しておくことが大切でしょう。

同様に申告書に添付する勘定科目内訳明細書についても、できるだけ詳細に正確に記載することが大切です。特にイレギュラーな処理をした場合には、その特殊事情を説明した資料をつける等の配慮が望まれます。

また、売上項目では、受注から売上、請求、入金等の一連の流れの中で不自然なものはないか、売上の期ずれ(売上計上の期間がずれていること)はないか、売上除外はないか等の点検が重要です。

つまるところ、日頃の記帳ルールや業務手順のマニュアル化、システム化等により作業の流れや管理の状況が客観的にわかるようにする努力を惜しまないことです。

原価項目で見ると、前期末と当期末の棚卸高が大きく違う場合に妥当な理由があるかどうか、固定資産を破棄するときの手順に不審な点はないか、貸倒れの理由が正しいかどうか、不明な交際費の計上はないかどうか、資産計上すべきものと修繕費が間違っていないか等々があり、それぞれについて書類や証憑の漏れはないか、証憑間の整合性はとれているか等を確認するという地道な防衛をすべきでしょう。

まとめ

いかがでしたか?

今回は、税務調査は赤字会社にもはいるかという角度から検討してみました。

まとめますと、

・税務調査は赤字会社にも入る。
・税務調査では、全体的なヒアリングの後、帳簿調査をする。
・調査官は予め調査の上、接触する。
・消費税については、赤字・黒字関係なく税務調査がくる。特に消費税の還付の時は注意。
・調査官はKSKシステムにて異常値のあった会社を調査の候補とする。

となります。

国税庁の「税務行政の現状と課題(平成31年3月)」によりますと、国税庁の今後の税務調査方針としては、大口、悪質な納税者に対しては深度ある調査を行うとしています。

しかし、その他の納税者には文書や電話などによる簡易な接触と、事案に応じたメリハリのある接触にシフトしようとしているようです。

それはまた、マイナンバー制度や電子申告の推進により、従来より申告漏れが見つかりやすくなったため、今後は納税者の自発的な納税を期待しているようにも見てとれます。